マンション管理士が教える 管理組合の理事になったら最初に読むべきこと

マンション管理組合の理事長を専門家に依頼するなら

突然、管理組合の理事に選出されたとき、多くの方が戸惑いを覚えるでしょう。

理事としての役割は「責任が重い」「トラブルに巻き込まれそう」といったイメージを持たれている方も少なくありません。

しかし、実際にはすべての理事がプロフェッショナルである必要はありません。

大切なのは「どこに気をつければよいのか」「何を見落としがちなのか」を事前に知っておくことです。

この記事では、理事に就任したばかりの方が最初に知っておくべき基礎知識や実務のポイントを解説します。

管理組合とは?管理組合の役割と理事の位置づけ

分譲マンションは、複数の区分所有者によって共同で所有・管理されている建物です。

各住戸の所有者が集まって構成するのが「管理組合」。管理組合は法律上、自動的に成立するもので、任意加入ではありません。

管理組合の主な役割は、マンションの共用部分を良好に維持し、居住者全体の快適で安全な暮らしを守ることにあります。

たとえば、エレベーターや共用廊下の修繕、防犯設備の更新、大規模修繕工事の計画など、多岐にわたる業務を担っています。

その中でも、日常的な意思決定や実務を担うのが「理事会」です。

理事会は、組合員の中から選ばれた理事長、副理事長、会計、監事などで構成されており、理事は管理組合の“執行部”としての役割を担い、総会で決まった方針を具体的に実行する責任があります。

つまり、理事は「住民代表」として管理組合の中核を担う存在であり、居住者全体の利益を考えた判断と行動が求められるのです。

総会・理事会の違いと意思決定の流れ

マンションの管理における意思決定には、「総会」と「理事会」という2つの場があります。

総会は、すべての組合員が出席または議決権行使書によって参加し、管理方針や重要な支出・契約内容などを決定する最高意思決定機関です。

通常、年に1回の通常総会が開催され、必要に応じて臨時総会が開かれます。

一方、理事会は選出された理事によって構成され、日常的な業務や緊急対応、総会に向けた準備を行います。

たとえば、大規模修繕工事の事業者選定や、管理会社との契約見直しの検討などが含まれます。

理事会で決定した事項は、必要に応じて総会で承認を得ることで正式決定となるのが基本的な流れです。

このように、総会と理事会は役割が異なりますが、どちらもマンションの健全な運営に欠かせません。

理事として最初に取り組むべき「確認」と「準備」

長期修繕計画で定める内容

理事に就任したばかりの段階では、「何をすればいいのか分からない」という不安がつきものです。

しかし、最初にやるべきことを整理しておけば、その後の理事活動をスムーズに進められます。

以下では、理事として最初に確認しておきたい資料や、管理会社との関係性づくりに必要なポイントを解説します。

前年度の議事録・収支報告・契約内容の把握

まず着手すべきは、前年度までの運営状況を把握することです。

理事として意思決定に関わる以上、過去の情報がベースにあることは欠かせません。

具体的には、理事会や総会の議事録、決算報告書、予算案、そして管理会社や各業者との契約書を確認しましょう。

これらの資料を読み込めば、現在の課題や未解決の案件、繰り越し案件、また住民からの要望がどう取り扱われてきたかが見えてきます。

また、収支報告を見れば、管理費や修繕積立金の使われ方に問題がないか、収支バランスに懸念がないかを確認できます。

加えて、契約書に明記されている業務範囲や金額について把握しておくと、今後の理事会において管理会社とのやりとりや見直しの判断材料として活用できます。

これは、新任理事にとっての“現在地の確認”であり、スタート地点として不可欠な作業です。

管理会社との関係性と役割分担を明確にする

多くの管理組合では、日常の実務を管理会社に委託していますが、すべてを任せきりにしてしまうのは危険です。

理事として、管理会社がどこまでを担っており、どこから先は組合が判断すべきなのかを明確にしておくことが重要です。

たとえば、修繕工事の見積もり取得や選定プロセス、トラブル対応の方針、会計処理のチェック体制など、曖昧になりがちな部分は特に注意が必要です。

理事会と管理会社が適切に連携し、責任の所在を明確にしておけば、トラブル時の対応もスムーズになります。

また、就任後早い段階で管理会社担当者と面談の場を持ち、過去の経緯や現在の課題についてヒアリングしておくとよいでしょう。

現場感覚を持った情報収集ができる上に、信頼関係の構築にもつながります。

理事は決して“専門家”である必要はありませんが、“質問できる当事者”であることは求めらるため、最初に役割分担を明確にしておきましょう。

意外と知らない「理事の責任」と法律的な位置づけ

理事という役職は「ボランティア的な役割」と捉えられがちですが、実は法律上の責任も伴う重要なポジションです。

住民から選ばれたという事実は、単なる形式的な役割ではなく、管理組合の運営に対する一定の法的義務を負う立場にあるという意味でもあります。

以下では、理事に課せられる「責任」と「リスク」、そしてそれに備えるための現実的な工夫について解説していきます。

善管注意義務と損害賠償責任の可能性

理事には「善良な管理者の注意義務」、いわゆる善管注意義務が課されています。

これは、一般の人が同じ立場に置かれた場合に通常期待されるレベルの注意を払って行動することが求められる、という民法上の義務です。

簡単に言えば、「うっかりしていた」では済まされない場面があるということです。

たとえば、理事が重大な修繕工事の見積もりを適当に判断してしまい、結果的に品質の悪い工事で建物に損害が生じた場合など、住民から「損害賠償」を請求される可能性もゼロではありません。

もちろん、故意や重過失でない限り個人責任に至るケースはまれですが、法的な立場としてこうしたリスクを理解しておきましょう。

特に近年は管理費や修繕積立金の使途に敏感な住民も多く、意思決定プロセスにおける透明性や妥当性が厳しく問われるようになっています。

理事という役職には、「代表者」としての信頼に応える責任があるという認識が欠かせません。

専門知識がなくてもできるリスク回避の工夫

とはいえ、すべての理事が法律や建築、財務の専門知識を持っているわけではありません。

では、専門家ではない理事がどうやって責任を果たせばよいのでしょうか。その答えは「情報収集と記録の徹底」にあります。

まず、重要な議題に対しては、管理会社や専門家の説明をしっかり聞き、納得いくまで質問することを恐れない姿勢が必要です。

理解できないまま多数決に流されてしまうのではなく、「これは住民にどう説明できるか?」という視点で判断材料を集めることが、理事としての責任を果たす一歩です。

また、理事会での発言内容や、意思決定の経緯をしっかり議事録に残すことも、リスク回避には有効です。

後になって何か問題が発生した場合でも、「どのような情報をもとにどう判断したか」を明確にしておけば、個人の責任を問われにくくなります。

さらに、内容によっては管理士や建築士、弁護士など、外部の専門家に相談するという判断も大切です。

無理に自分たちだけで抱え込むよりも、プロの知見を借りながら進める方が、結果的に組合全体にとっても安全で効率的な運営につながります。

理事会運営でよくあるトラブルとその予防策

理事会は、管理組合の中でも日常的な意思決定を担う中枢機関です。

しかし、その運営においては、予期せぬトラブルや感情的な対立が発生しやすい場面でもあります。

特に、初めて理事になった方にとっては、何が“普通”で、どこからが“問題”なのかが見えづらく、対応に苦慮するケースも少なくありません。

以下では、理事会でよくあるトラブルを整理し、その未然防止のための視点を紹介します。

住民間の対立と情報格差による混乱

理事会で最もありがちなのは、住民間の「温度差」や「立場の違い」による対立です。

たとえば、修繕に前向きな意見と、支出を控えたいという慎重な意見がぶつかる場面などがあります。

このような対立の多くは、情報量や管理への関心度の差に起因しています。

理事会が透明な議論を行っていたとしても、その情報が十分に居住者に伝わっていなければ、「勝手に決めている」といった誤解を生むケースもあります。

対策としては、議事録や報告資料の見せ方、説明会の開催方法などを工夫し、住民との「情報の共有レベル」を意識して高めていくことが有効です。

反対意見も含めて話し合うプロセス自体に価値があるという認識が広がれば、対立は“理解”へと変わっていきます。

不透明な支出・契約とそのチェックポイント

もう一つの典型的なトラブルが、「お金」に関する疑念です。

とくに管理会社に任せきりの状態では、支出の中身や契約先の選定プロセスに対する不信感が生まれやすくなります。

「なぜこの業者に?」「見積もりは複数取っているのか?」といった素朴な疑問が、理事会の不透明さに対する不満へと発展することもあります。

予防の鍵は、「形式ではなく実質的な確認」です。

たとえば、定期的に帳簿を見直す機会を設ける、契約内容の更新時には理事全員で確認し合うなど、当たり前のことを当たり前に続ける仕組みを整えることが信頼構築につながります。

また、支出や契約は「事後報告」ではなく「事前の検討・共有」が基本。面倒に感じるかもしれませんが、トラブル回避のためには理事会自身が“説明責任”を果たす意識が不可欠です。

理事の役割は「守ること」と「つなぐこと」

マンションの資産価値は住民の協力が不可欠

マンションの理事は、「管理を担う人」ではなく、「みんなの暮らしをつなぐ人」としての役割があります。

日々の細かな業務は管理会社や専門家に任せつつ、住民の意見や不安を汲み取り、それを理事会で整理し、組合としての意思決定へと導いていく。その循環をつくることが、理事会の最も大切な役割です。

そして、トラブルや対立を恐れずに、“どうすれば伝わるか”“どうすれば理解されるか”という視点を持つことが、理事自身の負担を減らし、周囲の協力も得やすくなります。

自分だけで頑張ろうとせず、理事会・管理会社・外部専門家とチームで支え合いながら、少しずつ安心できるマンション運営を築いていきましょう。

 

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